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2009.01.26

野中郁次郎と昼食を

先日、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生の「マネジメントとは何か?」という話を伺う機会に恵まれた。これは、「戦略の不条理」で有名な慶應義塾大学の菊澤研宗教授が会長を務める経営哲学学会の対談企画で、他に2人の商学部教授(榊原研互、渡部直樹両氏)の3人が野中氏と対談を行うのを、学会メンバーが拝聴するというモノだった。


野中氏の著作は名著「知識創造企業」など殆どの国内出版を読んできたが、最近になってS3^の資本及び業務提携先である黒木マーケティング室の黒木陽一氏と共に「SDD(Strategic Design Dynamics)」という理論を平成元年に紺野登氏と共に提唱していたことを知る。これは当時の博報堂が知識創造を提唱し始めた野中氏と共に、新しいマーケティングの概念を創ろうとして取り組んだ意欲的な「運動」であった。

黒木氏と紺野氏は博報堂の同僚であり、紺野氏は後に学会へ転身し、現在は多摩大学の教授となっている。近著「知識デザイン企業」で鮮やかにSDDの精華を開かせている。因みにこのことを知るに至った経緯は、国連大学の宮尾尊弘教授が、僕が11月に出席した国際プロジェクトプログラムマネジメント学会の講演で「デザインを単に意匠という意味でしか使っていないことは残念である」という事を仰っていた事に端を発する。

宮尾氏のデザインとイノベーションシステムという論点では、「イノベーションはデザインによって引き起こされる。しかし、イノベーションを『技術革新』と訳してしまうようでは覚束ない」と言いながら、ボストン、ミラノの事例が紹介され、産学クラスターにIDEOなどのデザイン事務所が入り、重要な役割を担っているというのだ。

「M&Aなどを会計事務所や経営コンサルじゃなくってデザイン事務所が主導するようになると面白そうですね」と、質問の最後に付け加えると「ええ。因みに一橋大の竹内弘高教授は新入生への講演で『マネジメントを学ぶのならビジネススクールに行くのではなくデザイン学校へ行きなさい』と訓辞したそうです」と、お答えいただく。 御存知の通り竹内氏は「知識創造企業」の野中氏の共著者である。

ダイヤモンド社のハーバード・ビジネスレビュー2008.12月号にIDEO代表のティム・ブラウンが「デザインシンキング」という論文を寄稿している。これもデザインという方法を思考手段に取り入れる試みであり、論理思考の限界を打ち破るモノとして注目したい。


前置きが長くなったが、野中先生のお話は米国留学の背景や学んできたマーケティング、経営学の分野と選択理由などに始まり、ご自身の現状にまで話が及ぶ。経営学会の大スターが小さな部屋で、10人足らずの前で惜しげもなく2時間半話しているのを、非現実的な心持ちで聴く。

経営哲学学会でこの対談内容は公表されるので詳細は割愛するが、企業にとって今後重要さを増す概念、日本企業へのメッセージという部分について書いておく。

曰く、神は細部に宿る、というが、企業はディテールは大事にしなければならない。つまり現実に立脚するということである。如何に素晴らしい理想であっても現実に根差していない完全な絵空事では命題のリアリティが無くなる。現実に立脚した事実を大切に扱い、その上での大きなジャンプを試みるべきである、と。

これは、「関係性の関係性の関係性」という表現をされていたが、つまりはコンテクストのことを仰っていると思われる。そして、一般善(Common Good)との「より大きな関係性」を紡ぐことで大きなジャンプが可能になる。事例としてはホンダのCVCCエンジン開発が挙げられていたが、これは紺野氏の「知識デザイン企業」に詳しい。

細部と全体、過去と現在を行き来する(これもジャンプする)ような関係性を持つことの面白さも併せ持ちたいところであり、野中流の表現で言えば「大ボラ」が吹ける(コンテクストをジャンプして紡げる)ことが大事であり、それは「行為の只中での省み」(reflection in Action ※因みにonではなくinであることを強調)が本当の「仕事」である、とも。

そして、賢慮(Phronesis)を個(individual)から集合(collective)への移行を考えるときが来ていることを告げている。日本企業にはその顕在化されていない一般善を扱う素地があるのではないか---。 ここについては、ポランニーやチクセント・ミハイなど暗黙知のようなコンテクストに着目した人々がハンガリー人であることとの関係性を示唆していた。分かり難いかもしれないが、ハンガリーはマジャール語というウラル=アルタイ語族に属する「東洋的」言語なのである。つまり日本語も同様に、モノよりもコトを表すに適した言語・文化であり「プロセスこそが実在である」というマネージングフローを「巧く受け取ること」ができるのだ。

不祥事の続いた某総合商社が再生のキーワード「良い仕事をする」を紡ぎ出せたのはその証であり、社長が陣頭指揮を執りながら全国の社員との対話によって、多次元で、車座で、円陣を組んで、遠回りして集合的賢慮(Collective Phronesis)に行き着く様は、そのままこれからの日本企業に必要となる方法であろう。


・・・ざっと先生はこんな纏めをされたのだが、科学的分析手法は嫌いで性に合わないと仰っていたにも拘わらず、会員の漠とした質問に対し「A社ではこういう考え方でこの数値で、B社では・・・」と、司馬遼太郎風に言えば「切れば血の出るような具体性」をもった事例や数値で徹底的に回答される。以前から黒木氏に「野中さんご本人は嫌いかもしれないけど、数値分析は凄いよ」と聞いていたとおりである。


御一緒する予定だった昼食は、後の予定が詰まってしまい野中先生のみ欠席となるが、去り際に「もう大風呂敷を広げるのもこれで最後になりそうだから、『最後ッ屁』を出したいね。一緒にやりましょう。」と仰る。

はい!もちろん一緒に力一杯放りたいと思います!


posted by idr at 17:20

Profile

和田晃一
株式会社エスキューブド
執行役員
1970生まれ
1994NTT入社。附帯事業部門を中心に勤務
2004教育研修会社grownaviを設立。企業研修の企画設計、講師などを務める
2006エスキューブドに参加。コミットしている担当業務は「読書」